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認知症とは何か(その2)

    前回はそもそも「認知症」とは何かという部分を書きました。
    今回は認知症の症状をより具体的に書いていきます。

    いきなり学問的な話になってしまいますが、認知症の症状は大きく「中核症状」と「周辺症状」の2つに分けられます。
    中核症状は前回書いたような、記憶力や見当識、理解や判断、言葉や認識の障害です
    一方で周辺症状はそこから起こる二次的なものを指します。具体的には徘徊、失禁、不安、不眠、易怒性、暴言、暴力、幻覚、介護拒否などです。
    読んでいる方もわかると思いますが、二次的と言うと周辺症状より中核症状の方が大事な気がしますが、主に認知症での困りごととして中心となるのは周辺症状の方です。
    当然中核症状も人により程度に差があるので、すべての人にすべての周辺症状がでるわけではないですが、どれかひとつでもとても困る場合があるのが周辺症状の大変なところです。

    さてここでもうひとつだけ学問的な話を追加します。
    認知症の周辺症状に対する治療のガイドラインでは薬物療法の前に環境調整が推奨されています。
    これは上で書いたように周辺症状は二次的に起こるものなので、病気そのものだけでなくその人のおかれた環境によっても症状への影響があるということの現れです。
    こういった部分が中核症状と周辺症状に症状を分類する理由です。
    簡単に言えば中核症状よりも周辺症状の方が症状の改善が見込みやすいということです(もちろんなかなか改善できない場合もあります)。

    ここからは私の見解というか捉え方の話なのですが、周辺症状は考えてみれば納得のいくことが多いです。
    どういうことかというと、例えばあなた自身が認知症の中核症状を持ったと考えてみてください。
    自分がいる場所がわからなければ不安にもなりますよね。そして知っている場所に行こうと思ってうろうろしてしまう。周りから見ると徘徊と思われるでしょう。
    言いたいことがうまく言葉にできず人に伝わらないとイライラもするでしょうし、暴言も出てしまうかもしれません。もっとイライラしてしまうと手が出てしまう人もいるでしょう。
    普通なら実際暴力をしてしまうのは我慢できるかもしれませんが、認知症ではそういうこれはしてはいけないことだとか我慢しないといけないと判断する力も障害されることが多いです。
    そういった中核症状の積み重ねで周辺症状が出てしまうわけです。
    実際問題として周りの人は困るでしょうが、こう考えると「確かにそうなるか」と思える部分もあるのではないでしょうか。
    私はそういう気持ちも重要だと思います。認知症の患者さんは病気のために色々な脳の機能が障害されている部分はありますが、当然維持されている部分もあります。
    なので患者さんの周りの人が自分のことを理解してくれているというのは患者さんにも伝わりますし、それが安心につながると思います。
    そういう安心感も患者さんの周辺症状を改善する環境調整のひとつと考えています。

    そういう部分も含めた環境調整をした上でそれでもやはり薬剤を使用することは多いですし、併用することがよいとも考えています。
    というのも患者さん自身もその症状に苦しんでいることが多いからです。
    不安であったり、イライラしたり、そういうことはその人自身にとっても苦痛だと思います。
    それをやわらげる手段のひとつが薬剤でもあると考えると、認知症の周辺症状に対して内服することはそれほど悪いことではないと考えます。
    認知症の患者さんに対して自分が困っているからと内服させるのは罪悪感があるというご家族は多いです。その気持ちもよくわかります。ただその内服が患者さん自身のためになるのであれば、そのような罪悪感を抱かずとも済むのではないでしょうか。

    と、今回は少し長くなりましたが、認知症の症状に対する認識のようなものについて書いてみました。
    認知症はありふれた病気ですが、症状によって本人はもちろん家族や周囲の人も困ってしまうものです。ときにはそれが原因で患者さんと周囲の人の関係が悪化してしまうこともしばしば見受けられます。これは認知症のもしかすると一番悲しい症状なのかもしれないと私は思っています。
    ですが、環境調整を含めた治療をして穏やかに家族と過ごされている患者さんも多くおられますし、それを支えるのが在宅医の大事な役割とも考えています。
    今回の内容が認知症の患者さんはもちろん、その方を支える周りの人の助けになるといいなと思います。