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緩和と食事と予後

    以前クリニックのホームページの管理を依頼している会社の方とお話しする機会がありました。
    その際にアクセス数の多いページについて教えてもらったところ、向原先生の「癌の予後予測」の記事が一番たくさん読まれているということでした。やはりご自身やご家族の予後がどれくらいかというのは皆さん気になるのだろうと思います。
    私はブログに患者さんやご家族に伝えたいことを書いていますが、せっかくなら見る側の方が知りたいことを書きたいとも思います。
    なかなか皆さんがブログの記事として読みたいものがどんなものかをお聞きする機会がないので、今回はアクセス数を参考に、関連した話題を書いてみようと思います。

    タイトルだけでは少しわかりにくいと思いますが、今回伝えたいことは「がん患者さんが食事をとれないと予後が短くなるのかどうか」ということです。
    結論から言うと、私は「食事がとれないせいで予後が短くなることはない」と思っています。
    思っています、というのはこの論点について直接的な論文などの有力な文献があまりないからです(私が見つけられていないだけで探せばあるかもしれませんがその場合はすみません)。

    ただそれなりに根拠はあります。

    まず緩和そのものについてですが、緩和医療はそれ自体に予後延長効果があるという文献があり、これは痛みや疲労感などの身体症状をやわらげることで、体力が温存できるということが主な理由だと思われます。
    次に、予後が残り少ない患者さんへ点滴で栄養などを補充する際、どれくらい投与すると予後が延長するのかという文献では、結論としては‟投与しない″もしくは‟少量投与″が一番良い結果となっています(なので終末期がん患者の輸液についてのガイドラインでもそのように記載されています)。これは予後が少ない状態では、すでに代謝(栄養の吸収や利用)に障害が出ているため、体内に直接投与された水分や栄養が身体には負担になるということだと思われます。
    これらの文献から、身体の負担軽減は予後延長に有益であり、代謝不良の状態での過剰な栄養は身体に負担となると考えられます。
    これらを合わせると、過剰な栄養摂取で身体に負担をかけるよりは適度な量にして負担を軽減するほうが予後にはいい影響がある、と推測されます。もちろんあくまで推測であり、確定的ではないですが、経験上からもそれほど見当外れではないように思います。

    以上の考えに基づいて、私は患者さんやご家族に説明する際には「食べられないから予後が短くなるのではなく、単に(予後が短くなってきたから)体が以前ほど食事を必要としなくなっただけ」と説明しています。
    経験的にも、無理に食べても吐き気がしたり、食べること自体が苦しくなったりすることが多く、あまりいい結果にはならない印象があります。また逆に食べたいもの(アイスや氷菓子、フルーツなど冷たくさっぱりしたものを好まれることが多いです)を食べたい分だけとってもらう方が身体的にも精神的にも良い場合が多く、「食べたいということはそれを必要としているということ」とも説明しています。
    ちなみに、予後が短い段階での栄養補給について点滴よりも食事形態や内容の工夫の方がガイドライン上も強く推奨されており、この点でも一般的に推奨されている医療として矛盾ないものと思います。

    患者さんご本人もそれを見守るご家族も、食事量が減ってくることをショックに感じられることが多い印象ですし、それも当然だと思います。ただそこでそのことを受け入れられずに無理をしてしまうと返って余計につらい思いをすることも多く、いかにそこから少しでも快適で穏やかな時間を過ごしてもらえるようにお手伝いできるのかが私たちの仕事だと思っています。