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老衰というもの(その1)
今回は老衰について書いてみようと思います。
皆さんは老衰と聞くとどんなイメージを思い浮かべるでしょうか。なんとなく「眠るように最期を迎える」などを思い浮かべる方が多いかな?と想像しますが、医療者が思う老衰と患者さんやそのご家族が思う老衰が違う部分もあるかもしれないと思い、このようなテーマにしてみました……が、書いてみると長くなってしまったので3つに分けることにしました。
本題に入る前に、まず皆さんが老衰について考える場合はおそらく、ご自身やご家族の体調の変化ひいてはその最期がなにか改善できるものではないのか、自然な変化、天寿といっていいものなのか、という不安や心配からが多いのではないかと思います。私たちは在宅診療に携わっているため、病気の如何によらず看取りというものは多く経験していますし、それに至るまでの時間をより良いものにしたいと思って診療するという意味では老衰かどうかで差はあまり感じません。ただやはりご自身やご家族が最期を迎える際に、それが病気などの何か原因のあるものなのか、なにも原因のないいわゆる老衰なのかというのは気持ちの面で大きな差になるのだろうと思いますし、それも当然のことと思います。
そこで今回の記事が少しでもそのような不安や心配を減らし、日々の時間をより良いものにする一助になるように書いたつもりです。
さて老衰の定義について書くと、一般的には「高齢者において明らかな特定の臓器疾患や系統疾患なしにホメオスタシスの維持機構が崩れる状態」とあります。
ホメオスタシスという言葉は聞いたことがあまりないかもしれませんが、日本語では「恒常性」と訳される言葉で、なるべくわかりやすく書くと「外部からの変化に対して肉体全体から細胞レベルにおいて内部を一定の状態にしようとするシステム」です。とはいえ抽象的でわかりにくいですね。具体例としては「暑い日に歩いていると汗をかく」というのもホメオスタシスです。人間の体内温度は37度前後でないと生きていけません。暑い外気や日光によって体内温度が上がってしまうのを防いで、一定の温度を維持するために汗をかいて気化熱で相殺しようとしているわけです。そしてこれがうまくいかないときに起こるのが熱中症であることを考えると、生命の維持にどれほど重要な機能であるかがわかります。しかも「汗をかく」のはホメオスタシスの働きの結果の本当に一端であり、ありとあらゆる部分でホメオスタシスが働いており、言ってしまえば心臓が動くのも、食事をして排泄するのもホメオスタシスです。
話を戻すと、老衰の特徴は、「この生命を維持するのに必要不可欠なシステムが崩れる」ということと、それが「特定の臓器や病気によらない」ということの2つです。
今回は内容的にはほぼホメオスタシスの説明だけになってしまいましたが、ここで終わろうと思います。
次回はもう少し老衰について踏み込んで書くつもりです。