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老衰というもの(その3)

    前回までで老衰とはこんなものかというイメージは掴んでもらえたかと思いますが、今回はより実際的な部分について書こうと思います。

    最初の記事で老衰の特徴は「この生命を維持するのに必要不可欠なシステムが崩れる」ということと、それが「特定の臓器や病気によらない」ということの2つと言いました。
    ここで大事なことがあり、外見的な変化でわかることは「この生命を維持するのに必要不可欠な部分が崩れる」という部分だけで、「特定の臓器や病気によらない」というのはそれまでの経過や検査の結果でしかわからないということです。つまり何かの病気のせいであっても老衰のような変化が起こることはあるということ、また老衰と判断する理由はそれまでの経過や検査の結果によるということです。

    まず急に睡眠時間が増えたり、食事量が減ったりすると私たちは何か病気のせいじゃないかと考えます。必要であれば検査もしますし、治療によって改善しないかと試みます。その上でやはり検査上問題がない場合や治療で改善が見られない場合にやっと老衰の可能性が高いと判断します。あくまで他に原因がないというのは消去法でしかわからないからです。これが老衰と判断する理由はそれまでの経過や検査の結果によるということの実際です。

    次に何かの病気のせいであっても老衰のような変化が起こることはあるということですが、これは何かの病気による直接的な障害の前に病気による消耗からホメオスタシスが崩れる影響が出てくる場合です。例えばかなり高齢の悪性腫瘍の患者さんなどでは、一般的な悪性腫瘍の患者さんで見られる経過というよりは老衰に近い経過を辿られる方もいます。これは特定の疾患があるために当然老衰ではないのですが、転移などによる直接的な臓器障害などが起こる前に病気による消耗で老衰が後押しされたと言え、体で起こっていることとしては老衰にかなり近いと思います。また心不全など他の慢性疾患の方でもその進行がかなり緩やかな場合には老衰に近い経過を辿ることがあります。

    色々と書きましたがこれまでの話を最後にまとめてみると、
    老衰の具体的な変化としては、睡眠時間が増えたり、食事や排泄の量や回数が減ったりが少しずつ起こってくる場合が多い。
    ただ単に高齢だから老衰なのではなく、他に原因がないのに上記のような変化がある場合に老衰と判断される。
    老衰ではなくともかなり高齢の場合には老衰と似たような変化を辿っていく場合がある。
    ということになります。

    最後の記事にこのような内容を書いたのは、最初の記事で書いたようにこの記事が患者さんやそのご家族の心配や不安の軽減に役立てばいいなと思ったからです。皆さんが不安に思う部分というのは、例えば「本当に老衰なのだろうか?」だったり「病気のせいで苦しい時間を過ごしてしまうのではないだろうか?」だったり、だと推測します。そういった不安の答えの一つに今回の内容はなるのではないかと思いますし、そうなっていれば嬉しいです。
    苦痛というのは難しいもので一人一人によって何が苦痛かは違うので、簡単に苦痛はないなどと言うのは無責任に思えて、説明の部分に苦しいかどうかなどはあまり書きませんでした。ただ一般的に老衰的変化では苦痛が少ないとされるのも事実です(老衰ではないからすなわち苦しいというわけではもちろんないです)。そういう情報でこれを読む人の不安が少しでも減るならそれはいいことだと思いますし、老衰は消去法でしか示せないものであることや病気があっても老衰のように穏やかな変化で最期を迎える可能性があることは、ある意味での希望や安心にもつながると思います。
    なんだか全体的にややこしい話が多くなってしまってわかりにくいかもしれませんが、この話に限らず患者さんやそのご家族の不安や心配が少しでも減るようにしたいと思っているので、診察の際に気になることがあれば遠慮なく気軽に聞いていただければと思います。