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患者さん目線で考える

    一般的に患者さん目線で考えることができる医師はいい医師だとされています。
    もちろん私もそう思いますが、多くの人は患者さん目線で考えることができる優しい医師だから良い医師だと思うのではないでしょうか。しかし実際には優しいとかそういった人格的な意味だけではなく、実際の治療という意味でも大事な要素であるということを今回は説明したいと思います。

    例えば会社勤めの患者さんがいるとしましょう。忙しいので昼の内服薬を忘れやすかったり飲むタイミングがなかったりします。ここで病気のことだけを考えて一日三回の内服薬を朝昼夕で処方してしまうと、当然お昼の内服が不規則になって治療の質が落ちてしまいます。
    しかし患者さんの状況を理解すれば、一日二回の内服にするか、もしくは勤務前、勤務後、寝る前など別のタイミングにするか、などいくつか代替案を考えることができます。
    これは単純な例ですが、もっと複雑な例でも同じです。

    おなかの調子が悪い患者さんが、ある薬を飲み始めてからその症状が出たので薬が原因だと思っているとします。実際に不調の原因が薬のせいかどうかはもちろん場合によります。そういう副作用の出やすい薬であればその可能性は高いですが、まったく偶然にタイミングが重なっただけのこともあります。
    ただいずれにしても患者さんが「飲み始めた薬が原因でおなかの調子が悪くなった」と思っているのを理解することは重要です。
    この話でいえば、薬にそのような副作用はないものとしてみましょう。医師が患者さんの考えを理解しなければ、単純に症状に対して検査や治療をすることになりますし、薬が原因なわけでもないのでそれまでの処方も継続します。でも患者さんの中では原因と思っている薬が処方され続ける上に、そこは放置して検査や治療の追加となるわけです。そうなると患者さんは医師に対する不信感を抱くかもしれませんし、自分で原因と思っている薬をやめてしまうかもしれません。
    そういうことを避けるためには患者さんの考えを理解し、それが医学的に間違っている場合には正しい情報を伝える(この場合でいうと副作用にそういう症状はないと説明するなど)必要があるわけです。
    これもまた見方によっては「患者さん目線で考える」と言えると思います。

    と、こんな風に実践的な意味でも患者さん目線で考えることは大事なわけです。
    かといって治療に有益だからという理由だけでこのように振舞っているわけではもちろんありません。
    単純に患者さんの気持ちや考えに寄り添う結果として自然と患者さんと同じ目線に立つというのが根本ですが、そこによりよい治療につながるというメリットがさらに存在するということです。
    難しく書きましたが、要は、患者さんが思っていることや考えていることを理解し、正しく説明したり不安を解消したりすることが大事、という当たり前なことです。
    しかし言葉で書くほど簡単ではなく、それでいてこの部分は治療のためにはもちろん、患者さんとの信頼関係のためにも大事な部分だと思っており、日頃から意識して心がけていることなので今回記事にしてみました。